ーー畑中さんの「危ない、こわい」という「東京×自転車」のイメージは具体的にどういうことなんでしょうか?
「ただ自転車で走るのではなく『東京を』という都市ならではのイメージなんですよね。自転車で走る、ということであればやっぱり気持ちよいという魅力があるんですが、東京を走るとなるとどうしても危ない、こわいというイメージが浮かんでしまう。物体の運動エネルギーは、質量m×速さvの2乗に比例します。たとえば、自転車って時速30kmでだいたい10kgだとして、同じ道路を一緒に走る自動車は時速60kmでだいたい1000kgとすると、10×30×30:1000×60×60=1:400。400倍ものエネルギー量の物体とすぐ隣り合って走るわけですから、自転車のスピードの心地よさを味わっている場合じゃない」
ーー自転車レーンが必要な理由のひとつですよね。危ないと感じるのはなぜなのか、ということを考えるとその解決方法が見えてくる。問題意識とは逆に、畑中さんにとって、自転車のポジティブなイメージってなんですか?
「たくさんのものが見える、ということ。電車だと出発点の駅と目的地の駅のまわりの街しか見えませんが、自転車だとその間の街のことも見えてくる」
ーー点を結ぶ移動と線の移動の違いということでしょうか?
「そうですね。あとスピードだと思うんです。動物が情報を取り込んで処理できる能力と自力で移動できる最高速度は直接関係しているんだそうです。移動可能スピードを超えると、動体視力や判断能力といった処理能力がついていかない」
ーーそうすると人間は100mを10秒で走るスピードを時速換算すると36km/hです。それを超えるスピードで移動するとまわりの情報処理ができない?
「じゃあクルマで時速100kmで走れるのはなぜか、というと、高速道路を考えてみてください。環境やルールが整備されて情報が制限されているからです。そのかわり、そこには生の情報がないので移動していても面白くない。だから、だいたい時速20kmくらいで走る自転車って、人間の情報処理能力を限りなく最大限に利用しながら、たくさんの情報の刺激を受けて処理しながら移動できるスピードなんじゃないかと思うんです」
ーー自転車のスピードが心地よいとみんなが感じているのはそういうことかもしれないですね。でも一方で、情報を制限することでスピードを得ているクルマにとっては、自転車がその半分以下のスピードで同じ道路を走るわけですから、クルマにとっては自転車は過剰な情報になってしまうわけですね。
「みんなそれぞれ感じ方や考え方が違うと思います。だから自転車に乗っている人だけじゃなくて、タクシーの運転手さんとかバスの運転手さんにも意見を聞いてみたいと思っているんですよ」


ーー今のところ、タクシーやバスは都内の自転車にあまりいい印象を持ってなさそうですよね。でも公共交通とうまく連携していくというのも、東京と自転車の問題解決のソリューションのひとつだと思います。
「LAB.にもそういう意見が出ていましたね。たとえば、カリフォルニアではバスに自転車を積むためのラックがついているんですが、その辺りではバスが主に幹線道路しか走っていないんです」
ーー東京でいうと地下鉄に近いんでしょうか。
「そうですね。だから住宅地の奥の方の人たちは、自転車でバス停のある幹線道路まで出なくちゃならない。なので、自転車が積めることが必要なんです。日本の場合、バスはどちらかというと自宅と駅の間を往復するための移動手段で、自転車は競合になってしまいますね。LAB.のQ2で『バスが30人乗りの自転車だったら』というお題を出しているんですが、タクシーが自転車だったら、というのもどうですか?」
ーーベロタクシーではなく?
「ベロタクシーは、人力車もそうですが、運転手さんにこいでもらっているのに後ろに乗っている自分が何にもしないというのが、ちょっと心苦しいというか申し訳ないと思っちゃいませんか? だったら一緒にこぐってのはどうかな。LAB.に親子の2連の自転車を投稿しましたが、ああいうタンデムです。駅前から気軽に乗って、目的地についたら車両は運転手さんに任せられるので駐輪とか盗難を気にせずにすみますし」
ーーなるほど。一緒にこぐわけですね。自転車はやっぱり身体的な乗り物ですからこいで初めて良さがわかるものでもありますし。東京のいろんなものが自転車だったら……と、ふっと思いついたことをLAB.に投稿して、議論してみたら実現できそう! なんてことになったら面白いですね。
「いろいろ思いついたことを発言することによって、自分のなかに何か新しい考えが生まれたり、断片的に浮かんでいたアイデアが整理されたりする。さらに人の考えや知識を聞くことで、『へえ、なるほど』と新しい意識が自分のなかに生まれたりもします。ですからLAB.では、感情や感覚的な思いを引き出すような質問や、その問題意識に対する解決のタネみたいなものを提案して、みなさんの思いや考えを探りながら一緒に議論を展開していきたいと思っているんですね。そうやって多くの思いつきやアイデアを集めて、それをなんらかの形にできればいいな、と思っています」
(text & interview photo: X2 TOKYO Project)